仮定法その3:ファンタジーを語る仮定法

さて、過去2回にわたって、仮定法を解説しました。第一回目は最もよく使う4パターン、その次は、「現実的なシーン」に使う4パターンを紹介しました。

今回は、願望や過去の「たら・れば」など、現実にはありえない「架空の話」の4パターンを紹介します。

ファンタジーを語る if

if には、大きく二つの使い方があります。一つは前回解説した、「現実的な話」のパターン。そしてもう一つは、実現性がほとんどない、あるいはまったくあり得ない、「架空の話」のパターンです。よく耳にする “If I were you”(「もし僕があなただったら」)などはその代表例です。自分が他人になることは絶対にできませんので、100%架空の話です。

僕らはこのような架空の話を日常的にしています。事故の報道を見て「もしこれが自分の身に起きたら」と話したり、「もしあの頃熱心に勉強していたら」など、過去を振り返って「たら、れば」の話をしたりします。

この架空の話には、いろいろなパターンがあります。順番に見ていきましょう。

1. 願望を表す if

「もしもどこでもドアがあったら」「タイムマシンがあったら」など、叶う可能性がない架空の話です。こうしたファンタジーを話すときには、次のような形になります。

if文=過去形
結果=would/could+動詞の原型

この「if文=過去形」は、文法的には過去形ですが、実際には過去ではなく、「もしも」の話をしています。

日本語でも「もし今ここにどこでもドアがあったとしたら」のように、ありえない仮定を過去形で話します。それと同じです。

また、if文の主語の後のbe動詞は、were になります。If I were youと部分だけ覚えている人が多いでしょう。理屈は考えずに、とにかくそういうものだと思ってください。

いくつか例を見てみましょう。

If I were in Tokyo right now, I would go see my friends.
もし私が今東京にいたら、友達に会いに行きます。

現実には東京にいないので、友達には会いに行けない。

If I won a lottery, I would travel all around the world.
もしも宝くじが当たったら、世界中を旅行するよ。

現実に宝くじが当たる可能性はほとんどないので、旅行にもいけない。

If I got into the university of Tokyo, my Dad would have a heart attack.
もし僕が東京大学に受かったら、父は心臓発作を起こすだろう。

東京大学に受かる確率は極めて低いため、父が心臓発作を起こす心配はない。

これらはどれもまったく起き得ないファンタジーですから、条件も結果も現実に根付いていません。

なので、これが一体いつの話なのは、あまり気にしなくても大丈夫です。例えば、以下の文章はそれぞれ遠い未来か、過去を振り返っているように思われるかも知れませんが、どちらもまったくのファンタジーなのです。

If interstellar travel were possible, the human race would start invading other planets.
もし恒星間旅行が可能になったら、人類は他の惑星を侵略し始めるだろう。

恒星間飛行が可能になるのは、100年後なのか、それとも1000年後なのか、はたまた未来永劫来るかどうかも定かではありません。

If I were still a teen, I would try to be an astronaut.
もし私がまだ10代だったら、宇宙飛行士を目指します。

一見、過去のような印象を持つかもしれませんが、あくまで「もし今まだ10代だったら」という話です。

それから、wouldではなくcouldを使って、「もしもファンタジーが叶ったら、可能になるであろうこと」を表現できます。

If I were rich, I could buy a big house.
お金持ちだったら、大きな家が買えるのに。

実際にはお金持ちでないので、大きな住宅を買う可能性はありません。

If I weren’t so glued to my smartphone, I could study a language or two.
もし僕がこんなにスマホに釘付けになっていなければ、外国語の1つや2つを勉強することができるのに。

実際には常にスマホに釘付けなので、外国語を覚えるどころの騒ぎではありません。

なおこの文型、文法用語で「仮定法過去」と呼ばれていますが、特に過去の話をしているわけではありません。この名称が分かりにくいのが、混乱の元ですが、別に難しくありません。文法用語を知らなくても、普通に使えるようになりますので、さまざまなシーンでファンタジーを語って、使い慣れてしまってください。

2. 過去の状況が変わったであろう if

さて、次は、過去の「たられば」の場合です。これには3つのパターンがあります。一つ目は、ある過去の出来事が変わっていたら、別の過去の状況も変わっていたであろう場合です。

下の図だと、現実の過去、AとBはもう起きてしまったけど、もしも「架空の出来事A’」が起きていたら、過去Bもまた、別の過去B’に変わっていたかもしれないケースです。



このような言い回しは、日本語でもよくします。

「もしあの時に猛勉強していたら、大学に受かっただろう」「もしも2015年に怪我をしなかったら、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックに出場していただろう」など、「ある過去の出来事が異なっていたら、その後に続く過去も変わっていたはずだ」シナリオです。

そんな場合には、次の形になります。

if文=過去完了形(had + 過去分詞)
主節=would +現在完了形(would + have + 過去分詞)

いくつか例文を見てみましょう。

If I had studied harder, I would have passed the exam.
もっと頑張って勉強していたら、試験に合格していただろう。

実際にはたいして頑張らず、そのため試験にも合格しませんでした。過去の努力不足を嘆いている状況です。

If I had known you were coming, I would have baked a cake.
もしあなたが来ると知っていたら、ケーキを焼いていただろうに。

実際には来ることを知らなかったので、ケーキは焼いてありませんでした。なので、「知らせてくれればよかったのに…」と嘆いている状況です。

I would have been much happier if you had called me on my birthday.
私の誕生日に電話してくれたら、もっと嬉しかったでしょうに。

実際には電話してもらえず、あまりハッピーではありませんでした。そのことを愚痴っている状況です。

また、would ではなく could を使うことで、「もし◯◯していれば、XXできただろうに」というように、過去に存在した可能性を言い表すこともできます。

If I had slept just a little better, I could have aced the exam.
もう少しよく眠れていたら、試験で高得点が取れただろうに。

If Janine had taken a taxi, she could have gotten on the plane.
ジャニーンがタクシーに乗っていたら、飛行機に乗れただろうに。

この表現方法は、過去の失敗への後悔の念を言い表すのにとても便利です。実際によく会話で使われます。

3. 今の状況が変わったであろう if

もう一つのパターンは、過去の出来事が違っていたら、今の状況が変わっていただろう、という場合です。図にすると、こんな感じです。



例えば松任谷由実さんの「海を見ていた午後」という曲に、こんな一節があります。

「あのとき目の前で思い切り泣けたら 今頃二人ここで海を見ていたはず」

これはまさしく「過去の出来事が異なっていたら、今の状況が変わっていたであろう」というパターンです。

「(もしも)あのとき目の前で思い切り泣けたら」はあり得たかもしれない過去の出来事で、「今頃二人 ここで海を見ていたはず」は、もしかすると現在起こり得た状況ですが、現実には今、一人ぽっちで海を見ている最中です。このように、条件が過去で、結果が現在の場合には、このフォーマットになります。

条件=過去完了形(had + 過去分詞)
結果=would/could +動詞の原型

いくつか例を挙げてみましょう。

If Mike had taken Japanese in college, he would have job opportunities in Japan.
もしマイクが大学で日本語を学んでいたら、日本での就職も可能だっただろう。

現実にはマイクは日本語を大学で学んでいないため、現在、日本での就職の可能性はありません。

If I had bought the stock, then it would worth $1.5 million today.
もし私がこの株を買っていたら、今頃150万ドルの価値があっただろう。

現実には株を買っておらず、従って、150万ドルも手にしていません。「あの頃に株を買っておけば、今頃はなあ…」と嘆いているイメージです。それから、worth を形容詞として使うならば、”It would be wroth” ですが、この例文では動詞として使ったので、”It would worth” としました。これは好みで、どちらでも特に問題ありません。

さて、最初の「海を見ていた午後」の歌詞を英訳してみます。まず、「あのとき目の前で思い切り泣けたら」を過去完了にします。「泣けたら」は “If I could cry” と英訳できますが、そのままだと過去完了形にできません。そこで could を使わずに be able to を使って “If I was able to cry” とします。すると、 “If I had been able to cry” と、過去完了形にできます。

「今頃二人ここで海を見ていたはず」の方は、 would +現在形の形にします。するとこんな訳文が出来上がります。

If I had been able to cry in front of you, we would be here together now, watching the sea.

もう少し詩的な訳し方が色々とあるかと思いますので、皆さんもぜひ考えてみてください。

4. 過去が未来に影響を及ぼしたであろう if

次は、過去の条件が未来に影響を及ぼすパターンです。例えば、「もし医学部に入学していたら、来年には医者になっているはずだった」や「もし、コロナウイルスが蔓延していなかったら、夏休みにはみんなでニュージーランドに行くはずだった」なんて言いたい場合です。図にすると、このような感じです。

この場合も、基本的な文型は「3」とまったく同じですが、would+現在形ではなく、現在進行形にします。以前、現在完了形の記事で紹介したことがありますが、現在完了形を使って、近未来の予定を言い表せるからです。

参考記事:【英文法解説】現在進行形は「今やっていること」以外のことを言うときにも使います

また、tomorrow night, next month などのように、いつそれが起きるのかを明示することが多いです。

if文=過去完了形(had + 過去分詞)
主節=would +現在進行形

いくつか例を挙げてみましょう。

If Gail had gotten the job instead of Mark, she would be moving to Singapore next month.
もし、マークではなくゲイルがこの仕事をゲットしていたら、彼女は来月シンガポールに引っ越すことになっていただろう。

現実にはゲイルはその仕事をゲットしていないため、シンガポールへの移住も予定していません。

If Mina had not forgotten to sign up for the ski trip last week, we would be leaving here tomorrow night.
先週、ミナがスキー旅行の申し込みを忘れていなければ、明日の夜にはここを出発するはずだった。

現実にはミナが申し込みを忘れてしまったため、明日の夜出発することもありません。

If Derek hadn’t wasted his bonus on gambling, he would be going to Mexico with us next month.
デレックがギャンブルでボーナスを無駄にしていなければ、来月一緒にメキシコに行くはずだった。

現実にはデレックがギャンブルでボーナスを使ってしまったため、来月メキシコに遊びにいくことはできそうもありません。

まとめです。

練習しよう!

では最後に、練習してみます。

次の日本語は、どのように表現できるでしょうか?

直訳したり、翻訳ソフトに使ったりせずに、「自分ならこういう場合には、どんなふうに言うだろうか?」と考えてみてください。

1. 願望を表す if

1. もし僕が君だったら、その仕事の依頼を引き受けるだろうな。

2. もしどこでもドアがあったら、エジプトのピラミッドを見に行くだろうな。

3. もし宇宙旅行が可能だったら、予約が殺到して3年待ちくらいになるだろうな。

2. 過去の状況が変わったであろう if

4. もし、3月末までフィリピンに滞在していたとしたら、その後数カ月間はフィリピンで過ごすことになっていただろう。

5.もしジョンが午前9時前に家を出ていれば、インタビューに遅れることはなかっただろう。

6. もし昨日雪が降らなかったら、何をしてた?

3. 今の状況が変わったであろう if

7. 私が彼女に対してあんなに怒らなかったら、今でも仲良くしていただろう。

8. もし株を売っていなければ、今頃は5億円になっていただろう。

9. FDAが昨年この画期的な薬を承認していなかったら、私は今頃ここにいなかったでしょう。

4. 過去が未来に影響を及ぼしたであろう if

10. もしビザの延長が許可されていなかったら、来月には飛行機で帰国することになっただろう。

11. もしキャシーが足を骨折してなければ、今夜みんなで一緒にボブの結婚式に出席しているのになあ。

12. 先月、現行バージョンのiPhoneを買っていなかったら、明日発売される新型のiPhoneを買っていたでしょう。

解答

では解答です。一つの解答例と考えて、参考にしてください。絶対の正解ではなく、他にも言い方がいろいろあり得ます。なので、これに囚われないようにしてください。

1. もし僕が君だったら、その仕事の依頼を引き受けるだろうな。
If I were you, I would take the job offer.

このパターンの使い方でおそらく一番多いのが、この “If I were you” でしょう。本当に頻繁に出てきますので、このまま覚えてしまうべき if 文です。

2. もしどこでもドアがあったら、エジプトのピラミッドを見に行くだろうな。
If I had an Anywhere Door, I’d go see the pyramids of Egypt.

とりあえず「どこでもドア」は、英語版のドラえもんを参照して、Anywhere Door としました。また、Anywhere Door の前の冠詞は、きっと未来の世界にはたくさんあるであろう「どこでもドア」のうちの一つがあったら、というわけで an としましたが、漫画「ドラえもん」に出てくる「あの有名な誰でも知っている『どこでもドア』」というニュアンスにしいたのなら、the の方が適切です。また、ピラミッドは世界各地にありますが、「エジプトの」と限定してるので、the pyramids of Egypt. です。in Egypt でも問題ありません。

3. もし宇宙旅行が可能だったら、予約が殺到して3年待ちくらいになるだろうな。
If space travel were possible, there would be a rush of reservations and the waiting list would be three-year long.

この調子で行くと宇宙旅行も近い将来可能になりそうですが、価格が3億円くらいに下がってきたら、世界中の大金持ちが殺到して、3年待ちくらいになるのはまず間違いないでしょう。さて、”the waiting list would be three-year long.” の部分は、”you’d have to wait for like 3 years.” などとしても構いません。

4. もし、3月末までフィリピンに滞在していたら、その後数カ月間はフィリピンで過ごすことになっていただろう。
If I had stayed in the Philippines until the end of March, I would have been stuck there for the next several months.

僕は2020年3月24日にフィリピンを出国したのですが、シンガポール経由で帰国できたのはそれが最後でした。コロナの影響でどんどん便がなくなり、本当に帰れなくなるところでした。

さて、これも特に難しくはありません。交通渋滞などにはまって身動きが取れなくなった場合にも、stuck in〜と表現しますが、この場合には、出国できない状態を言い表します。

5. もしジョンが午前9時前に家を出ていれば、インタビューに遅れることはなかっただろう。
If John had left the house before 9 am, John would not have been late to the interview.

こちらも特に難しいところはありません。こういう表現ってよく使いますよね。いわゆる仮定法過去完了、使いこなせると非常に便利です。

6. もし昨日雪が降らなかったら、何をしてた?
If it had not snowed yesterday, what would you have done?

結果のところを疑問文にする場合も、would +現在完了形とします。

7. 私が彼女に対してあんなに怒らなかったら、今でも仲良くしていただろう。
If I had not gotten so mad at her, we would still be good friends now.

つまらないことである日ケンカし、それっきり疎遠になってしまった。そんなことって、人生に何度かあります。そんな場合には、if文を過去完了形、「今こうだっただろう…」という結果の部分を、would +現在形とします。これなどはその典型的な文章です。これもまた、後悔を表現するのによく使う表現です。

8. もし株を売っていなければ、今頃は5億円になっていただろう。
If I had not sold the stock, It would worth 500 million yen by now.

Worth を形容詞として使うならば、”It would be wroth” ですが、この例文では動詞として使ったので、”It would worth” としました。どちらでも大丈夫です。

9. FDAが昨年この画期的な薬を承認していなかったら、私は今頃ここにいなかったでしょう。
If the FDA had not approved this groundbreaking medicine last year, I would not be here right now.

FDAは Food and Drug Administration という政府機関の略称です。そして、ちょうど USA の前に the が付くのと同じ理屈で、定冠詞 the が必要です。「画期的」groundbreaking としましたが、発明などでは、この単語を使うのが割と普通です。

10. もしビザの延長が許可されていなかったら、来月には飛行機で帰国することになっただろう。
If my visa extension had not been approved, I would be flying back to my country next month.

これは特に難しくありません。日本人が間違えやすいのはむしろ、visa extension の前の所有格 my をつけ忘れたりすることです。

11. もしキャシーが足を骨折してなければ、今夜みんなで一緒にボブの結婚式に出席しているのになあ。
If Kathy hadn’t broken her leg, we’d all be attending Bob’s wedding together tonight.

こちらもあまり難しくないかと思います。

12. 先月、現行バージョンのiPhoneを買っていなかったら、明日発売される新型のiPhoneを買っていたでしょう。
If I hadn’t bought the current version of the iPhone last month, I would be buying the newer model that goes on sale tomorrow.

これも日本人にとって難しいのは冠詞ではないかと思います。 現行のバージョンのiPhoneは話し手も聞き手も何を指しているのかわかるので、current の前は定冠詞 the になります。それから、iPhoneは固有名詞なので、その前は冠詞なしだと思うかも知れませんが、大抵の場合、the iPhoneというふうに、製品群として参照されるので、the が付きます。

ただし、私のiPhoneと言いたいのであれば、My iPhone ですし、たくさん並んでいるiPhone の中のどれでもいいから一つ、と言いたいのならば、Give me an iPhone, any one of them. とふうに定冠詞が付くこともあります。この辺りは、疑問に感じるたびに何度もググってみるのが一番ですが、その際には、英語でググってみることをお勧めします。日本語でググるよりも、ずっとたくさんの説明が見つかります。

生きた英語にたくさん触れよう!

今回は仮定法の架空の話をするパターンを紹介しました。

ただ、この記事を読んだり、ちょっと問題集を回すくらいでは、実際の会話のシーンで、仮定法を淀みなく使えるようにはなりません。実際の会話では、「if の後にwould + 現在完了が来たから、これは過去のたらればの話だな」などと考えていると、あっという間に取り残されてしまうからです。

聴いた英語がそれがそのまま即座に理解できるようになるには、まず大量の英語を読んだり聴いたりして、これらの文型に何度も遭遇し、文型や語感の違いを感覚的に捉えていく必要があります。また、この際に触れる英語は教科書や問題集の例文ではなく、PodcastやYouTube ビデオや洋書など、あくまでネイティブ向けに作られたコンテンツを意識してください。これ、本当に重要です。

参考記事:「問題集の反復」と「多読多聴」、実際の会話に役立つのはどっち ?

騙されたと思って、ぜひ地道に大量の英文に触れ続けてください。

Brightureでできること

Brightureでは特に「文法のクラス」というのは用意していません。次の3つの授業で文法の理解を深めていきます。

Everyday Speech

英文法やイディオムの学習を目的とした初心者〜中級者向けの授業です。

レッスン内容:Everyday Speech

Reading and Writing

Reading and Writingは、ブライチャーで英語力の基礎固めと位置付けられる重要なマンツーマン形式の授業です。課題図書をこなすことで自然な英文に大量に触れ、英作文をすることで文法のミスや不自然な言い回しを減らしていきます。

レッスン内容:Reading and Writing

Daily Conversation

日常会話でよく使う言い回しを学ぶクラスです。こうした初歩的な言い回しも丁寧に指摘してくれます。

レッスン内容:Daily Conversation

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