30 3月 あがり症克服の専門家 金光サリィさんに聞く、緊張しすぎずに英語のプレゼンテーションを楽しむ方法
ブライチャーでは毎週金曜にプレゼンテーションの時間があります。それが怖くて来るのをためらっている方が少なからずいると思います。あがり症克服の専門家であり、昨年ブライチャーで1カ月間英語を学ばれたあがり症克服の専門家、金光サリィさんにプレゼンで緊張しすぎず、楽しむ方法を伺いました。
サリィさんのあがり症克服トレーニングの紹介ビデオ
松井博(以下、松井):お久しぶりです。お元気そうで何よりです。
金光サリィ(以下、サリィ):はい、お陰様で元気にしております。その節は大変お世話になりました。
松井:さっそくなんですけど、ご存知の通りブライチャーでは毎週末にプレゼンをしています。でも事前のスカイプ面接で生徒さんから「プレゼンはしなくちゃいけないのですか」とか「緊張しそうで」などという声をよく聞きます。
サリィ:そうでしょうね。日本人には基本的に、緊張やあがり症で悩んでいる人の割合が多いです。長年、あがり症克服トレーニングを提供してきて、日本人はあがり症になりやすい教育を受けているなぁと感じます。
プレゼンぐらいできないと、英語でビジネスは難しい
松井:日本語でもあがりやすいのに、英語だったらなおさらですよね。英語のプレゼンにビビる気持ちもよく分かるし……。でも、プレゼンってある意味ラクな面もあるんです。相手は聞いてくれるスタンスだし、途中で突っ込まれることもありません。海外の現場、例えば会議などはもっとずっとハードで、自分で話に割って入る必要もあるし、逆に割られて、話の腰を折られてしまうこともあります。
サリィ:松井さんがビジネスコーチングのクラスで教えてくれましたよね。日本人は海外の会議などで発言しないから、居ないものとして扱われやすいって。とにかく発言してナンボだって。
松井:そうそう、だから「プレゼンくらいできなくて、どうやって英語を使ってビジネスをするの?」という気持ちもあります。
サリィ:そういう意味でも、ブライチャーの授業のためにあがり症を克服するというよりは、その先の英語を使って活躍するために、緊張やあがり症の克服に正しく向き合ってほしいですね。
元々はあがり症だったサリィさん
松井:サリィさんがブライチャーにいたときにプレゼンでいくつか克服方法を紹介して頂きましたけど、非常に興味深かったです。脳科学をベースにしてるって仰ってましたよね?
サリィ:はい。あがり症を克服というと、決まって「場数を踏め」とか「練習しろ」など、根性論になってしまうんです。でも、私はこれをやってどんどんあがり症がひどくなってしまった過去がありまして……。
松井:あのプレゼンを見る限り、あがり症だったなんてとても信じられないですけどね。
サリィ:おかげさまで、今はすっかり図々しくなりまして。みんなが自分の話を聞いてくれるのは嬉しいし、ありがたいことです。
松井:あがり症だったときは、どんな感じだったんですか?
サリィ:1分程度のアナウンスも、心臓が口から飛び出しそうなぐらいドキドキし、手足は尋常でないほどに震えて、顔は真っ赤だったり、真っ青だったり(笑)。何時間も練習した上で、手元にメモも持っているのに、前に出ると視界がゆがんで、メモなんか見えなくなるありさまでした。
松井:それは大変ですね!
サリィ:何度トライしても、逆にどんどんひどくなるので、私はダメな人間だなと思っていました。運良く脳科学に出会うことができ、最終的にはそれを基に自分で考えたあがり症克服トレーニングを10日間実践して克服できました。誰でも実践できる内容で、本を出版する際は、脳波研究の第一人者の志賀博士から推薦文を頂いています。
緊張という言葉の捉え方が大事
松井:そこまでのひどいあがり症の人は、サリィさんの本を読んだり、トレーニングを受けてもらいましょう(笑)。でも、そこまでじゃなくても、誰にでも緊張する場面ってあるでしょう?
サリィ:その「緊張」という言葉の捉え方がすごく重要なんです。例えば、よくスポーツ選手が「良い緊張感でした」とインタビューで答えていたりしますよね。これって緊張をポジティブに捉えている証拠なんですよ。
松井:なるほど。
サリィ:緊張という言葉に強くネガティブな印象を抱いてしまっている人は、聞くだけで嫌な感情が想起されてしまう。そういう人は、そもそも「緊張」という言葉を使わない方がいいんです。「緊張しないようにしよう」と自分に言い聞かせることは、脳にとっては「緊張しなさい」と指示されているようなものだからです。
松井:だから、ブライチャーの先生に ”Don’t be nervous.”(緊張しないで)と生徒に声掛けをしてはダメだって教えてくれたね。それは、「緊張せよ」という意味だと。
サリィ:はい。じゃあどんなふうに声掛けすると良いのかという話なんですけど、多くの人が「リラックス」を目指してしまうんです。これがなかなか緊張をマネジメントできない理由なんです。
松井:そう! それが新しくて面白いと思いました! Relax!(リラックスして)でもないんですよね。
サリィ:人前で何かすることに対してネガティブなイメージがある場合は、人前に出ると、脳の防衛本能が働いて、身体が興奮してくるんです。そのような状態でいくらリラックスしようと思っても、本能に逆らうことになるので非常に難しいんです。
松井:スポーツの世界とかでも、本番直前に選手が自分の体をバンバン叩いて、リラックスとは逆にパンプアップさせてますよね。
サリィ:そうなんです。そんなふうにテンション上げていくぞーって感じで、身体からのエネルギーを上手に使うことがカギなんです。私の克服方法は、身体の反応を押さえようとするための努力をせず、身体の反応に添った方法なので、とっても簡単なんです。
松井:この考え方を知っているだけで、緊張しやすいって人でもすごくラクになりそうですね。
サリィ:はい。もう少し緊張がひどくて困っている人にもアドバイスさせて頂いてもいいですか?
松井:もちろんです!
ネガティブなイメージをポジティブに変える
サリィ:さきほど、本番に対するネガティブなイメージが強い人ほど、防衛本能が働いてしまうっていう話をしたのですが、その本番へのイメージをネガティブからポジティブなものに変える方法がいくつかあるんです。
松井:面白いですね。それがサリィさんの本の5つの方法ですか?
サリィ:はい。本には「5つの魔法」ってことで書いています。サリィという名前なので、魔法使いサリィちゃんで企画が通ったんです(笑)。5つとは、「言葉」「態度」「行動」「イメージ」「1枚」なんですけど、「1枚」というのは原稿の書き方なので、メインははじめの4つです。
松井:それらを知って実践すれば、本番のイメージがネガティブからポジティブになると。
サリィ:はい、そうです。まず、「言葉」というのは、先ほどの繰り返しになるんですけど、ネガティブな印象の言葉を使ってしまうと、脳はそれに反応するので、良い印象の言葉を使うということです。例えば、「緊張してきたー」というとネガティブな感情が湧き出すときは、緊張をテンションと言い換えて、「テンション上がって来たー」と言う。全然イメージが変わってきます。
松井:なるほどね〜。
サリィ:あと大事なのは、自分をどんな人間だと思っているか。これを「セルフイメージ」というのですが、人間はその自分のセルフイメージ通りに振る舞う傾向があるんですよ。
松井:私は仕事が好きだ……と思っていると、仕事ばかりしてしまう、みたいな。
サリィ:そうそう、それです。「私は緊張しやすい」と思っている人は、その言葉通りに脳が反応して、緊張させます。だから、セルフイメージをポジティブなものにしておく必要があるんです。例えば「私は人前で話すのが大好きだ」というセルフイメージを作ります。ただこのとき、「私は人前でリラックスして話せる」というセルフイメージでは、うまく行きにくいです。
松井:なるほど。身体の反応に添ったセルフイメージが良いということですね。
サリィ:はい、その通りです。脳の仕組みをしっかり理解して新しいセルフイメージを作ることが肝心です。
松井:「態度」というのは?
サリィ:人は楽しいときに笑うと思われていますが、意識的に笑顔を作っても楽しい気分になれるんです。これは脳が「笑顔」と「楽しい」をくっつけてプログラミングしているからなんです。だから、人前に出るときに、申し訳なさそうに背中を丸くして、拍手なんかも拒否するようなジェスチャーをしてしまうと……。
松井:脳が、「自分にはできない、自信がない」と萎縮してしまう?
サリィ:はい、その通りです。ですから、自信が溢れるポーズとか、有効な笑顔の作り方とかをマスターすると、自分の新しいセルフイメージを手助けしてくれます。
松井:セルフイメージをせっかく作り直しても、態度が以前のままだと機能しにくい?
サリィ:はい。新しいセルフイメージに合った態度を身に付けるといいですね。
サリィ:次の「行動」は置いておいて、「イメージ」なんですが……。
松井:これってイメージトレーニングみたいなものですか?
サリィ:はい。そう思ってもらって構いません。本番をポジティブにリアルに想像すると、それが脳への指示になって、その想像どおりに行動しやすくなるというものです。でも、あがり症の人はそのポジティブな想像の元になる記憶を持ち合わせていない場合が多いんです。
松井:ネガティブな記憶の方が強く残りそうですしね。
サリィ:そうですよね。なので、私は実際に本番の絵を描いてもらいます。それを仮の記憶として、自分に刷り込んでいくことで、本番へのイメージをポジティブにします。言い忘れましたが、先ほどの新しく作ったセルフイメージも、自分に刷り込んでいきます。
松井:自分への刷り込みはどういうふうに?
サリィ:刷り込みし易いと言われているのが、朝の起きがけと寝る間際の頭がボーっとしているときなんです。そのときに、新しいセルフイメージを唱えたり、絵を見て、その絵に書いた自分のポジティブな感情を強く感じるようにします。簡単なので、ぜひ緊張しやすくて困っている人にはやってみてほしいです。
松井:なるほど。では、さっき飛ばした「行動」というのは?
サリィ:あぁ、そうでした。これまでお話した「言葉」と「態度」と「イメージ」の内容をしっかり実践するということです。知っているだけでは意味がないですから。そして、「あがり症から卒業する日を決める」ということです。
松井:卒業というのは面白いですね。
サリィ:よくいらっしゃるのが、「あがり症を克服してから人前で話したい」という方なんですけど、最終的にあがり症を克服できたかは本番でしか分からないじゃないですか。だから、卒業式(本番)を設定して、それまでトレーニングを実践し、実際の本番で大成功のスピーチをして、「ヤッター!」「嬉しい!」というリアルの感情で最終的に記憶を上書きする。それがあがり症からの卒業式(克服)となります。
松井:期限って大事ですよね。
サリィ:はい。期限があるとパワーがでますよね。この本番の機会がなかなか無いという人も多いと思うので、ブライチャーのプレゼンを卒業式に設定するのもイイと思いますね。
大切なのは「反省しないこと」
松井:他に何か「これだけは伝えておきたい!」ってことありますか?
サリィ:そうですね〜。「反省しない」ってことですね。
松井:反省しないですか。ブライチャーの会話のクラスで進めている「いちいち会話の流れを止めて間違いを指摘しない」っていうのに通じる気がしますね。
サリィ:とても脳科学的にいい方法だと思います。
松井:これだけ言うと、誤解を受けそうなんですけど、英語での会話の中で、間違いがある度に一回一回ストップして間違いを指摘するよりも、間違ったところを会話の中で講師が軽く言い直す。これだけで、しっかり「あ~、そう言えばいいのか」と気付いて、徐々に間違いが減っていくんです。
サリィ:その通りだと思います。会話をストップして訂正されては、生徒は会話に苦手意識を持ったり、失敗することを恐れたりするようになる可能性があります。そうすると、あがり症の仕組みと一緒で、防衛本能が働いてしまう。防衛本能を司る脳の部位は変化を嫌うので、新しいものを受け入れようとしなくなるんですよね。
松井:なるほど。
サリィ:楽しんでいる状態の脳は、変化することや学ぶことが好きなので、会話を楽しみながら自分の間違いが分かれば、どんどん吸収すると思いますね。
松井:反省ではなくて、「こうだよ」って導いてあげる指導は理に適っていると。
サリィ:はい、まさに。日本人は反省好きで、何かした後には「ここを失敗した」「ここが悪かった」と、うまくいかなかったところに注目してしまう。脳は、注目したところを再現させようとしたり、拡大させようとしますので、次も反省材料満載の出来になってしまうんです。
松井:だからそんなことはせず、ただ楽しめばいいと……。
サリィ:はい。もちろん反省することを100%否定はしませんが、良い所に注目して喜ぶことです。脳が快の状態になれば、どんどん改善しようとするので、自動操縦で良くなっていきます。
松井:英語も頭で考えすぎている人よりも、少ない単語でも会話を楽しんでいる人の方が圧倒的に上達が早いですしね。コミュニケーションを図るための言語なんだから、どんどんアウトプットする。そしてそのときに伝えられないことがあったら、後でその部分をインプットするほうが結局早いと思うんです。
サリィ:そうですね。それを聞いて思い出したのですが、ブライチャーでのプレゼンって、各自テーマは自由じゃないですか。そのときに自分の好きなことをアウトプットしようとする人と、とりあえずでテーマを選んでいる人では、パフォーマンスと英語学習の成果に大きく差が生まれると思いますね。「~しなければならない」の勉強ではなく、「~したい」という感情から勉強することは、脳を有効に利用するコツですから。
松井:なるほど。最後にこれからブライチャーに英語留学する人に向けて、何かメッセージがあればぜひ。
サリィ:そうですね。「自分はちょっと緊張しやすいな」と思っている人は、この内容を聞いて(読んで)くれただけでも良い状態に向かえるかと思います。「自分のあがり症はちょっとやそっとでは…」と思っている人は、ぜひ私の本やホームページ(vigomind.com)を読んでみて下さい。あとは、ブライチャーの先生方はほんっとにいい方ばかりで、プレゼンのときにも物凄~くニコニコ聞いてくれますよ。実はこの「人の発表を聞くときの態度」は、人前での緊張やあがり症に関係しているんです。普段から発表者と一体となって人の話を聞いている人は、自分が人前に立ったときには、(自分がそうだから他の人もそうだろうと)聴衆を仲間のように感じられます。でも、無反応に発表を聞いている人は、自分が人前に立ったときときにアウェー感を感じるんです。そういう意味でも、ブライチャーの先生方から学ぶことは多いと思います。
松井:そういってもらえると嬉しいですね。今日はためになる話をどうもありがとうございました。これから英語学習に臨む人だけでなく、いろいろなことに活かせる内容でした。
サリィ:ありがとうございます。またブライチャーにお世話になりたいと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。
参考: