【英語学習法】リスニングはなぜこんなにも難しいのか?

さて、質問箱にこのような質問を受けましたので、早速お答えしたいと思います。

みなさん意外に感じるかも知れませんが、リスニングって4技能の中でもっとも難しいスキルです。順番に考えてみましょう。

Reading

単語をすべて辞書で調べながら取り組めば、相当難しい文章でも読めないことはありません。また、自分のペースで進められるので、好きなだけ時間をかけられます。Google翻訳の補助も使えます。

Writing

書くのもまた、自分のペースで時間をかけられることの一つです。辞書も使えます。中3までの基礎文法がわかっていれば、何かしら書くことは可能です。ネットにはサンプルも転がっていますし、Google翻訳も使えます。理路整然とした、品格のある文章を書くのは難しいですが、日記を書いたり、メールで値段を聞いたりなどといったシンプルな内容であれば、なんとかなるものです。

Speaking

上の二つに比べるとだいぶ難しいですが、それでも主体性は自分にありますから、自分のペースで話すことが可能です。基本的な文法を知っていて、まあまあの発音で単語を並べられれば、一時的な会話ならどうにでもなります。ただ、そうは言っても Reading や Writing のようにいちいち辞書を引けないので、高い瞬発力は要求されます。また、ある程度の発音が整っていないと、せっかく言葉が出てきても通じません。

Listening

相手が自分のペースで話してくるので、聞いたまま即座に理解する必要があります。訛りの強い人もいれば、話すのが早い人もいますし、スラング混じりの人もいますが、こちらから相手の話し方を変えることはできません。知らない単語があっても辞書を引く暇もありませんし、文章のように返り読みなんてできませんから、聞いたままに理解できない限り、成立しません。

どうでしょうか? こうしてみると実は、リスニングが4技能の中でもっとも難しいことが容易におわかりいただけるのではないかと思います。

リスニングと言っても様々なレベルがある

また一口にリスニングと言ってもレベルがあります。かなり大雑把ですが、それぞれのレベル別で聞き取れる内容はおおよそ次のような感じです。

ご覧の通り、仮にTOEICのリスニングが満点でも、いざ字幕なしで映画を見ると結構わからなかったり、ネイティブだけのハイペースの会話になると、半分も聞き取れなかったりします。話題が絞られる会議や商談だとまだついて行きやすいですが、自分しか外国人がいない環境だったりすると誰も手加減しなくなるのでかなり苦戦します。

質問者の方とお話したことがないので具体的にはなんとも言えないのですが、TOFELの勉強をなさっているようですから、おそらくB2くらいではないかと思われます。そのくらいのレベルですと、Podcastやオーディオブックは、レベルを選ばないとかなり苦戦をするのではないかと思います。

自分の弱点はどこだろう?

なお、このそれぞれのレベルごとに、次の3つのハードルが待ち構えています。

1.そもそも英語の音が聞き取れること
2.聞いた単語や言い回しを知っていること
3.聞いた文章を脳内で和訳せずに、そのまま瞬時に理解できること

このどれか一つが欠けても、リスニングは成立しません。この質問者の方のように聞き取れない、難しいと感じる場合には、自分に何が欠けているのかを自問自答する必要があります。もしも TOFEL IBTで80点以上くらい取れているなら、音自体は聞き取れています。

ですので、つまずいているのは単語や言い回しを知らないか、あるいは脳内和訳癖がついていて、理解力が追いつかないかです。知らない単語がある場合には、スクリプトがある素材から取り組んで、未知の英単語や言い回しを少しずつ潰していく必要があります。

言っている単語は一語一句わかるのに、文の意味が頭に残らない場合には、3の理解力が足りていません。考えないと単語の意味を思い出せないレベルでは、無意識のうちに瞬時に理解できるところにまで辿り着かないのです。ですから、内容的にもスピード的にも無理のないものから少しずつ、薄紙を重ねるように少しずつレベルアップを図るのが上達のポイントです。

具体的な勉強方法

さて、次に具体的な勉強方法ですが、5つのステップがあります。順番に説明しましょう。

1. 発音を学ぶ

まず初心者のうちに発音を学んでしまってください。すると、日本語にない音が区別できるようになりますし、それから、音の繋ぎ方なども論理的に理解できますから、少なくとも、まったく音が聞き取れない、といったことはなくなります。ただ、国や地方が変わるとそれぞれの訛りがありますし、人によって話し方の癖やスピードも違いますから、誰の言ってることでもスムーズに聞き取れるようになるには、やっぱりそれ相応の時間がかかります。そうは言いつつ、最初に発音を学んでしまうのは圧倒的に近道です。これは英語学習者万人にお勧めします。

2. 8割くらいはわかるコンテンツからスタートする

それから、8割くらいは理解できるコンテンツからスタートしてください。理解度がそれよりも低いコンテンツだと、結局嫌になってしまうからです。また、8割くらいわかっていれば、多少不明な部分があっても想像で埋められますが、あまりに難しいものだと、単なるノイズにしか聞こえないからです。人間の脳は理解できないものは都合よく無視するようにできていますので、結局あまり勉強になりません。なので、よくわかるものから初めて、少しずつレベルアップをはかりましょう。

3. 好きな分野、日本語で予備知識のある分野から押さえていく

また、コンテンツは好きな分野や予備知識があるものから押さえていきます。予備知識があることは多少わからない単語があっても類推しやすいからです。また、好奇心が引っ張ってくれるので続けやすいです。それから難易度が少し高いドラマや映画にチャレンジする場合には、まずは一度日本語字幕で見て、内容を把握してしまうのは賢いアプローチです。内容を把握しているコンテンツというのは、格段に聴き取り易いからです。

さらに、最初のうちは同じ分野のものを集中して聞くのがポイントです。経済なら経済、社会学なら社会学、スポーツならスポーツと、一つ分野のいろいろなコンテンツを聞くと、周辺知識や単語が増えて、どんどん聞き取りやすくなります。

また、映像があると多少聞き取れなくても内容を類推できますし、映像とセットにして記憶に残りやすいので、DVDやNetflix などを利用して、映像をたくさん見るのもオススメします。

4. スクリプトや英語字幕を利用して、わからない単語や言い回しは調べる

中級者くらいまでは、とりあえず字幕やスクリプトを利用して、わからない単語や言い回しを調べて押さえてください。また。映画やドラマでしたら前述の通り1回目は日本語字幕で見て、まず内容を把握しまっても結構です。そして2度目以降は英語字幕で見て、どうしてもわからない単語や言い回しは調べてみます。

また、単語の暗記をする際には、なるべく日本語を挟まずにイメージ化して記憶するようにしてください。ここで日本語を挟んで覚えてしまうと、会話のペースが早くなってきたときに和訳癖が足を引っ張るからです。これ、初心者のうちはピンときませんが、上級者になるにつれ、本当に苦労します。

なお、難しい経済用語とか学術論文にしか出てこないようなややこしい単語は、意外に日本語とペアにして覚えてもさほど問題になりません。なぜかというと、そもそもこれらの言葉の日本語訳が明治以降に持ち込まれた翻訳語で、直訳が多い上に、対応する意味が1つしかないからです。

単語を一通り調べたら、その後また1、2回字幕またはスクリプトありで視聴して、馴染んできたら今度は字幕なしで見てみます。同じコンテンツを何度も見ると飽きてかえって記憶に残らないので、何度も視聴し続ける必要はありません。飽きたら無理せずにどんどん次のコンテンツに行ってみましょう。

5. たくさん聞いて遭遇率を上げる

まあ、意外に思うかもしれませんが、同じコンテンツを繰り返し視聴するのは実はあまり効果がありません。人間の脳は、忘れかけた頃にもう一度思い出すことで記憶が定着するからです。子供の頃に「その日のうちに復習しなさい!」なんて何度も言われますが、直後の復習は記憶の定着を図る上で、あまり効果がないことが科学的に証明されています。

それよりもいいのは、少し忘れてきた頃に以前のコンテンツに戻ってみることです。例えばコンテンツを数回視聴するとすでに惰性が芽生え始めるので、無理せずに次のコンテンツに移ります。またいくつか順番に視聴してから、再び最初のコンテンツに戻ってみます。当然半分くらい忘れていますが「あれ。これどういう意味だっけ?」と脳が働くので、結局は定着します。

これは読書でも単語の暗記でもすべてそうです。同じものばかりをやらずにランダムに順番を変えたりして、記憶に関与する脳細胞を活性化させます。なお、筋トレも同じメニューで練習を繰り返していると筋肉が刺激に慣れて効果が上がらなくなってきますが、同じことです。

発音を学びたい方へ

発音はおそらく自得が一番難しい課題です。なぜなら、正しくできているかどうか、自分では判断しにくいからです。また、日本語にない音がたくさんあるので、ここはレッスンを受けてしまうのが賢明です。

なお、最近僕も発音の本を発売しました。これ、大真面目にお勧めします。すべての音に対して正面と横から口内図がある上に、練習課題はネットを経由して見られるようになっています。この本は今後、ブライチャーの課題図書にしていきます。


なお、この記事と同じ内容のビデオも製作しました。記事を読むよりもビデオの方がわかりやすいという人は、こちらを視聴してみてください。

博 松井
hiroshi.matsui@brighture.jp

著書に『僕がアップルで学んだこと』『企業が「帝国化」するアップル、マクドナルド、エクソン~新しい統治者たちの素顔』などがある。2009年まで米国のアップル本社にシニアマネージャとして勤務。大学や企業での講演も多数。