英語の習得に「向き・不向き」は存在するのだろうか?

A子さんは、割合短期間で非常に流暢に英語が話せるようになったとします。

一方B夫さんのほうは同じ期間勉強したのに、なかなか上手になりません。

この二人の差は、どこから生まれてきたのでしょうか?

学習方法でしょうか?

動機づけや目的でしょうか?

交友関係でしょうか?

年齢差でしょうか?

性別の影響でしょうか?

性格によるものでしょうか?

それとも単純に才能の差でしょうか?

これ、実は非常に判別が難しいのです。なぜなら、言語習得にはこのすべての要素が強く影響するからです。ただそうは言いつつも、長年の研究の結果、明らかになっていることもたくさんあります。そこでこの記事では、何が語学の習得に強い影響を与えているのかを解説します。

言語習得に必要な能力とはなんだろうか?

まず第1に、言語習得にはどんな能力が必要なのか考えてみます。才能なのか学習方法なのか、才能だとしたら具体的にはなにが必要なのでしょうか?

これについては、第2次世界対戦の頃から研究が進められています。事の発端は大戦中のスパイ養成なのですが、米国の国防省も才能のない人に訓練を施して時間とお金を無駄にしたくないので、語学習得が早い者の特徴を抽出したのが始まりです。そして、その後も研究が進められ、1998年にはロンドン大学のピーター・スキーアン(Peter Skehan)教授が、言語習得に必要な能力として次の3つを提唱しました。

1. 音声認識能力
2. 言語分析能力
3. 暗記能力

この3つ、「確かにそれはそうだよね」と頷いてしまうものばかりです。

よく「語学の上達が早い人は耳がいい」と言いますが、根拠があったわけです。例えば日本語の母音は5種類しかないのに対して英語の母音は24種類もありますが、こうした違いをすぐに聞き分けてそっくりに真似できるようになる人と、そうでない人がいます。

次の言語解析能力は、話し言葉などを聞いてそこから文法ルールを抽出し、自分で応用する能力です。ほんの数年で正確な文法を滑らかに運用できる人と、何年たってもどこかしら文法が破綻したままの人がいますが、後者の人は、おそらくの文法解析があまり得意のではないと思われます。

3つ目の暗記能力ですが、前述のピーター・スキーアン(Peter Skehan)教授の研究によると、大人になってから獲得した言語でナチュラルに話せるかどうかには、この暗記能力が一番強く影響するようです。言語習得というと、正確な文法を覚えて、単語を当てはめたら正しく話せるような気がしますが、実際には膨大な数のフレーズを覚えて、それを適宜使いこなした方が自然に話せるというのです。ちなみに日常会話の大半はおきまりのフレーズの使い回しですので、暗記能力が高い方が有利になるのは納得がいきます。

ここまで読むと「僕には才能がない」とがっくりきてしまう人も多いかも知れませんが、一卵性双生児の追跡調査などで解明されてきた能力と遺伝の関連性によると、言語獲得が生まれつきの遺伝に依存する要素は50%ほどで、スポーツや音楽などに比べると、才能への依存度がずっと低いのです。ですので、言語獲得にかかる時間には大きな個人差があるものの、頑張れば割と誰でも一定のレベルには達すると考えても良さそうです。ただ、もちろん何にでも例外はつきものです。かなり稀ですが、全く語学習得に向いていない人というのも確かに存在します。判定する方法も確立されており、アメリカの大学では、こうした人は語学のクラスを免除されます。

もっとも影響の強い要素は年齢です

では実際のところ何が言語獲得に一番影響するかというと、それは圧倒的に「年齢」です。とにかく1歳でも若くして始めた方が有利です。僕は16歳からアメリカに住み始め、割と数年でかなり流暢に話せるようになりましたが、それでも14歳頃から住み始めた人たちと比べると明らかに滑らかさが劣っています。

なお、子供と大人で一番差が付くのは発音です。年齢の低いお子さんは本当に衝撃的なくらい早く正確に発音をコピーします。僕もよく「子供の早期英語教育は効果がありますか?」と尋ねられるのですが、音に関していえば1歳でも若い方が圧倒的に有利です。歌やチャンツをメインでやるような幼児向けの英語教室って世の中に結構ありますので、まだ幼い頃にこうした教室で、英語を好きになるところからスタートするのは絶対にアリだと思いす。

では、仮に子供の頃から英語圏に住んだとして、何歳以前に住み始めるとほぼネイティブと区別つかなくなるのでしょうか? これもまた膨大なデータがあるのですが、16歳以前だと、才能に関係なくネイティブとほぼ区別がつかないところまで到達するようです。逆に言うと16歳以降からだとわずかながら不自然さが残るというわけです。

では18歳以降ではもう無理なのかというと、別にそんなことはありません。ただ、年齢が経てば経つほど、ネイティブ同様になるのは難しくなります。

なお、稀にですが、35歳くらいで初めて渡米してきて、ものの2〜3年で驚異的なまでにうまくなる人なども確かに存在しており、実に不思議なものです。このように年齢がたってからでも上達する人というのは、何が違うのでしょうか? というわけで、別の要素も考えてみましょう。

性格の影響は?

外向的な性格でおしゃべりな人の方が語学の上達が早い印象がありますがどうでしょうか? これまた研究がたくさんあるのですが、結論から言うと確かに外向的な性格の人の方が上達が早いです。

では内向的な人はダメなのかと言うと、これまた研究されていて、言語の獲得は元々の性格よりも実際の行動に大きく左右されるそうです。つまり、仮に性格が内向的でも積極的におしゃべりをすれば上手くなりますし、仮に外向的でも誰とも話さなければ上手くならないと言うわけです。僕の友人にも外向的な上にアメリカに10年以上住んでいるというのに、日本人とばかり付き合っている人がいますが、当然のことながらいつまで経っても上手くなりません。やっぱり実際に使ってナンボなのです。

性別は?

じゃあ性別はどうなのかと言うとこれまた研究がたくさんあって、ぶっちゃけ女性の方が上達が早いです。これは母国語でも同様です。僕は保育園も経営していますが、平均値をとれば明らかに女の子の方が言葉の発達が早いです。女の子は早くから人形に話しかけたり、お友だち同士でおままごとをしたりして遊びますが、男の子の方はクルマのおもちゃとか積み木とかで遊ぶ子が大半です。当然ながら、女の子の方が言葉が早く上達します。

目的や動機は?

よく「英語学習には具体的な目標が大事」と言いますが、実際のところはどうなのでしょうか? これ、当たり前ですが大事ですし、研究でも検証されています。

なお、言語獲得の目的は人それぞれですし、上達のフェーズに合わせて目的や動機づけが変わってくる人も多いのではないかと思います。僕の場合を振り返って考えてみても、徐々にその目的が変わってきました。

僕が英語を学習する気になった一番最初のキッカケは、中学生の時にスイミングクラブに同世代のアメリカ人の男の子が2人が入会してきたことです。とにかくこの子たちと意思の疎通ができるようになりたくて、強く背中を押されました。また、このスイミングクラブのヘッドコーチが英語ペラペラだったのですが、その人への憧れもまた、強い動機となりました。

その後僕は16歳の時に1年間アメリカに住んだのですが、当初の動機は完全に「サバイバル」でした。その後、部活に入ったりして友達が増えると、今度は交友関係がまた強い動機付けとなりました。帰国後、今度はアメリカの大学に進学しようと決めたので、動機に欠くことなく勉強を続けることができました。そしてアメリカの大学では、学業でのサバイバルと友達との付き合いが常に背中を押してくれました。

またその後外資系企業に勤務したのも大きかったです。英語力がそのままキャリア形成に直接作用しましたから、これ以上強い動機はありえなかったように思います。

なお、もっと漠然としたところでは「アメリカン・カルチャーをもっと深く理解したい」という気持ちが常に僕の背中を押し続けました。コメディも社会問題も、歌の歌詞や映画の内容も一つ残らずすべて理解したかったのです。そしてこれは、英語が流暢になった現在でも僕の背中を押し続けてくれています。

というわけで、やっぱり目的や動機は大事です。例えばテストで高得点を取るとか、旅行で不自由したくないという動機でも非常に効果的なことが証明されています。ただ、目的をある程度達してしまうとそこで上達が止まってしまう人がかなりいますので要注意です。たとえ外資系企業に勤めていても、とりあえずあまり困らなくなると上達がストップしますし、海外に住んでいても同じことがおきます。だから、長期的には「カルチャーを理解したい」というような漠然とした動機の方が、むしろ大事なのかも知れません。

最後に学習方法ついて

最後に学習方法ですが、これももちろん言語習得に影響します。

なお、これを驚く人が多いかも知れませんが、言語獲得で一番重要なのはインプットの量です。インプット8割、アウトプット2割が適切な割合と言われています。また、インプットと言っても文法や単語集を回すのではなく、実際に使われている英語に大量に触れるのが大事なのです。

また、「インプット」と言っても、漠然と聞いたり読んだりするのではなく、あくまで「使うことを前提にインプットする」のが上達の秘訣です。

例えば仕事で電話会議をするとします。内容がわからないと仕事になりませんから、必死になって聞き取ろう、つまりインプットします。この後に「英語で議事録を書く」というようなアウトプットが待っていれば、さらに真剣度が上がりますので、脳に強く刻み込まれます。

また、映画やドラマを鑑賞してからその内容について英語でディスカションするなどでもいいのですが、「あとで英語で話さなくちゃ!」という意識が芽生えることで、同じ映画を見るのでも自ずと理解度が変わります。実際、英語を使わざるを得ない環境にいると必要に迫られてアンテナの感度が高くなるため、使えそうなフレーズのストックがどんどん増えていきます。

これを応用すれば、例えば課題図書を読んでそれについて英語で話し合うとか、映画やPodcastを聞いて話し合ったり、サマリーを書くなども非常に有効な学習方法です。こうして実際に使ってみることで、間違った用法に気づき、修正できるからです。ですので漠然とおしゃべりだけしても上手くならないものの、しっかりとインプットをした上で話したり書いたりしてそれを修正してもらうことで、確実に上達するというわけです。

まとめ

それではまとめです。言語習得の向き不向きは確かに存在しますが、動機を維持しつつ適切な学習方法に法って取り組むことで、克服できるものと言えそうです。

この辺り、英語だと膨大な文献があるのですが、日本語で読んでみたいという方にはこちらの1冊をお勧めします。今回この記事に書いた内容を、さらに詳しく読めます。もう10年ほど前の本ですが、内容は全く古びておらず、また巷に氾濫する英語学習法がどれも今一つな理由がよくわかります。

Brightureでやっていること

ブライチャーの体験談を読むと「宿題が大変だった」という内容が多いのですが、これは大量のインプットを課しているからです。以前は宿泊施設のネット環境遅かったため課題が「読む」に偏らざるを得なかったのですが、最近はネット環境が大幅に改善したので、読む事によるインプットだけに囚われず、聞くことに夜インプットの比率を高めています。短いPodcastのニュースなどを聴き、そのサマリーを書いてきてもらうと言った課題をやって頂いています。

ただ、一番いいのは日本にいるうちに大量にインプットしてくることです。そこでBrightureでは留学前にカウンセリングを実施し、課題図書やPodcastなどをお知らせしています。

博 松井
hiroshi.matsui@brighture.jp

著書に『僕がアップルで学んだこと』『企業が「帝国化」するアップル、マクドナルド、エクソン~新しい統治者たちの素顔』などがある。2009年まで米国のアップル本社にシニアマネージャとして勤務。大学や企業での講演も多数。