日本語から失われた音

先日、こんなツイートが流れてきました。まだ小学校低学年の子が、英語の音を聞いたままに読み仮名を振ったようです。

本当は大人がやったのではないかと疑惑を持たれていますが、アメリカに来てから、ひらがなとカタカナを覚えた次男のことを思い出すと、子供の耳ならば普通にあり得るような気がします。

このツイートの真偽はさておき、僕らは一体なぜ Apple を「アップル」、water を「ウォーター」と書き、そのように発音するようになったのでしょうか?

日本語の音素が少ない?

拙著、「日本人のための一発で通じる英語発音」でも説明しましたが、実は日本語は音素が少ない言語です。

日本人のための一発で通じる英語発音

音素というのは、意味の違いに関わる最も小さな音声の単位です。例えば「ばびぶべぼ」に共通する子音/b/は音素ですし、「ぱぴぷぺぽ」に共通する/p/の音素です。ちゃんと聞いて区別できるので、パン(pan)とバン(ban)とは違う意味になります。

この音素が日本語にはとても少なく、わずか26しかありません。ところが英語は、48もあるのです。(数え方によっては54という学者もいます)このため、日本語にない音は日本人が聞くと似ている音と一緒にされてしまいます。なので、late も rate も van も ban も同じような音に聞こえます。
また、日本語では子音が独立して使われるのは「ん」(/n/)くらいで、それ以外の子音は母音とペアとなって使われるのが普通です。

このため、数少ない日本語の音素で英語の音を表現しようとする限り、どうしても Apple がアップルになったり、stew がシチューになったりします。このため僕らは、ずっとカタカナ英語に悩まされる宿命にあります。

昔はもっと音素があった?

僕はてっきり、日本語の音素はもともと26しかないのだと思っていました。ところが、古代日本語では、もっとたくさんの音素があったらしいのです。
万葉仮名の分析などから、母音は8種類あったことがわかっているそうです。また、「キ・ヒ・ミ」、「ケ・ヘ・メ」、「コ・ソ・ト・ノ・モ・ヨ・ロ」にあたる各音とその濁音が、それぞれ2種類に書き分けられていたそうです。

このほか、今の日本語ではワ行は「わ・(い)・(う)・(え)を」の「い・う・え」にあたる仮名が存在しませんし、「お・を」も同じ音ですが、この「い・え・お(を)」は、「ヰ・ヱ・ヲ」(wi, we, wo)と書き分けられているため、別の音として扱われていたのだとされています。日本人は/w/の音で難儀しますが、古代日本語にはこの音があったんですねえ。面白いです。

こちらのYouTubeビデオは弥生時代から現代までの発音を再現したものです。平安時代くらいから、ようやく少しわかるようになってきますが、それ以前の発音はほぼ外国語です。

弥生時代の日本語で会話 [from Pre-Proto-Japonic to Modern Japanese]

ひらがなができて音が固定された?

ところが、そんな日本語も時の経過と共に音素の数が減ってきて、今の26に落ち着いていたようです。そして一説によると、これはひらがなが発明され、普及したかららしいのですね。ひらがなは表音文字なので、文字の普及とともに発音が固まっていったとする説には頷けるものがあります。

そして仮名文字がやがて外来語を輸入するときにも使われるようになり、僕ら英語学習者を大混乱させるカタカナ英語の大洪水となったようです。日本国内だけで使っている分には、とっても便利なんですけどね。

どうすればいいの?

では一体、僕らはどうしたらこの仮名文字の呪縛から逃れられるのでしょうか?
結論から言うと、あまりうまい方法はありません。日本で過ごした年数が長ければ長いほど苦労します。 ただ、そうは言ってもいくつか対策はあります。

1. カタカナで読み仮名を振らない

1つ目の対策は、英単語に日本語を用いた読み仮名を振らないことです。これをやっている限り、カタカナの呪縛から逃れることはできません。僕はたまたま中一の時にこのアドバイスを頂いたのですが、愚直に守ってよかったです。

代わりにフォニックスを覚えて、読めない単語に遭遇した場合には、日本語の仮名の代わりに、フォニックスのルールで読み方を書いておくことをお勧めします。実際、ネイティブは読みにくい単語にこうして読み方を書いています。例えば、choir は kwier、Edinburgh ならedinbre といった具合です。英語はドイツ語やフランス語から輸入された言葉も多いですし、外国の地名や人の名前なども難解です。ですので、ネイティブにも読めない単語がたくさんありますが、そんなとき彼らは、こんなふうに仮名を振っています。

2.動物の鳴き真似だと思って発音を練習する

発音を練習するときには、言葉だと思わずに、動物の鳴き真似を練習しているつもりで取り組んでみてください。話し言葉だと思うと、どうしても知っている日本語の音に引っ張られてしまうからです。なので、昆虫とか動物の鳴き真似のつもりで徹してみてください。

3.発音レッスンを受ける

大人になってから外国語の発音を覚えるのは非常に難しいです。どう頑張っても、母国語に引っ張られるからです。このため、自分では正しく練習しているつもりなのに、かえっておかしな癖がつく人も少なくありません。そして一度変な癖がついてしまうと、それを取るのは倍以上の時間がかかります。英語学習にお金をかけるのならば、発音に使うのが一番得られるものが大きいです
以上、「なぜ日本人はカタカナ英語に引きずられてしまうのか?」をお送りしました。仮名文字がなければ現代日本語は成立しないので致し方ないですが、英語学習者にとってはしんどいですね。でも、めげずに頑張っていきましょう!

なお、Brightureでは発音に特化したレッスンを提供しています。ご興味のある方はぜひ無料トライアルレッスンを受けてみてください!

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